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憲法シリーズ作品に取り組む
2006年、「当たり前に足元にあるものを描く」という私のコンセプトに共感し作品をコレクションされていた吉井明弁護士の発案で、全ての日本人の足元に当たり前にある「日本国憲法」の全ての条文を絵画で表現するという挑戦を始める。
憲法には「皆が幸せに暮らすためのルール」が書かれていると解釈し、本当の幸せとは何かについて思案し因循。そんな時、とある新聞記事で「物乞いのいない最貧国」という標題でブータン王国のことが紹介されているのを目にする。2007年、世界一国民が幸せを感じていると言われるその国を取材する。
ヒマラヤの懐深くにある小国ブータンに降り立ってすぐ、国際空港前の道ですら凸凹で整備されていない状況に唖然。「国の玄関前の道くらい舗装しないのか」という私の問いに対し、現地ガイドは以下のように語ってくれた。
「道を整えれば車の往来は活発になり経済は発展するでしょう。しかし家族はバラバラになってしまう。お父さんは遠くまで仕事に出かけて家族が毎日いっしょにご飯を食べられなくなってしまう。それは幸せなことではない。ブータン人は皆そのように考えているのです。」
懊悩としていた憑き物が落ちる。
この考え方で憲法を自分なりに解釈してみようと5年を費やし制作に没頭。この間個展などの発表は一切していない。2009年には憲法前文を表現した三部作の一つが第28回損保ジャパン選抜奨励展に推薦され、損保ジャパン美術賞を受賞する。
2010年、自宅近くの山沿いに現在のアトリエを構える。
2011年3月、最後の難関であった第九条三部作が東北の震災前日に仕上がり、憲法シリーズ全110点が完成する。
憲法シリーズ全作品は吉井明弁護士が当時運営していた大阪のエートス法律事務所に収蔵され、大作中心にエートスステーションという空間で常設展示していただいた。2012年、大阪至峰堂画廊で憲法制作後初の個展を開催し、同時に画文集「日本国憲法の心を描く」を自費出版で刊行。
同年から2013年まで全110点の憲法シリーズ作品を解説紹介する「憲法トーク」をエートスステーションで開催(全10回)。
メディアでも取り上げられ新聞一面や全国版の記事にもなった。憲法シリーズはその後、吉井明弁護士の死去もあり現在はみぞえ画廊に収蔵されている。
